• ホーム
  • サイト管理者
  • 小説
  • イラスト
  • リスト

index title

あの冬の日の事件は『呪われたアレキサンドリア領』と名付けられ、領地内外の人々の記憶に残った。
それから4年の月日が流れてはいたが、いまだ人々の記憶からは消えない。
あまりにも酷い出来事だったからである。
人々が記憶しているのは、2月の雪深い日に奥方と跡継ぎが国王の元に行った日、アレキサンドリア公は腹痛を訴えその日のうちに亡くなり、 継ぐはずの公の娘は前日魔物狩りの途中に霧に入って行方不明、という凄惨さであった。
その後も跡継ぎは国王の元から戻されずに、今やこの領はアレキサンドリア公の部下であったレンバー男爵が代理で統治している。
レンバー男爵が統治し始めてから、この領では貧しい者と富める者が出てきた。 わずか四年でこの差は大きくなり、領民はかなり苦しい生活を余儀なくされていた。
霧の中に消えた公女が戻れば、また前のような生活に戻れることを信じ、領民は耐え忍んでいたのである。
暴動に至らないのは、このレンバー男爵が毎月ルジート公女の捜索隊を霧の中に派兵し、彼女の帰りを待っているという事実があるからだった。 その費用を捻出する為の増税に不満はあったが、彼女が戻ってくるのであればと領民は認めざるを得なかった。
しかし捜索隊は霧にのまれるだけで誰一人戻らず、領民は流れ者で構成される捜索隊に無駄に費用をかけ続けているというありさまだった。
成果がないまま、時はいたずらに過ぎていったのである。

4年後の春であった。

「この先が領地になるんだけど、ほんとにいいの?」
乳白色の霧の中、女の声が響く。
霧がなければ色褪せた緋色のマントに、白銀の全身武装を見ることができただろう。
だが人の目には、その色も輝きも飲み込むほどの濃霧が一面に広がっていた。
女が動く度にカチャカチャと金属音がこだまする。
面倒事だけどいいのかというニュアンスがたっぷりと含まれている女の言葉だったが、問