• ホーム
  • サイト管理者
  • 小説
  • イラスト
  • リスト

時間通り一刻後に迎えが来て出向いた晩餐会は、ある意味見事だった。
まず食堂の内装が驚くほど煌びやかだ。柱の飾りには金箔が随所に貼られていて、蝋燭の光が揺らめく度にきらきらと輝く。 シャンデリアの飾り模様の細かさは職人達の技量の結晶と言えた。この絢爛豪華な食堂に、似つかわしい派手な衣装を身に纏った面々が、 ルジート達を待ち構えていたのである。
レンバー男爵と、その取り巻きと一目でわかる好色そうなベンウッド子爵、片眼鏡の奥で神経質そうな顔をしているハワード子爵、 椅子が2ついるのではないかと思うような巨漢のエメリット子爵の4人だけだと思いきや、その子息たちもテーブルについていた。
もちろん、ルジートは4年以上も前に茶会で見かけた子息以外面識はない。
しかし、そのあまりの面子の悪趣味さに4人は傾いた。
毒溜めという名がこれほどふさわしい晩餐会はないのではないか。
ルジートは心の中で舌打ちした。
全員の舐めるような視線に耐えながらルジートは挨拶を済ませると、食事に専念した。
無論横にいるセシリスの指示したものだけを食べる。
料理は確かに美味しい。だが、季節を無視したような食材が確かに並んでいた。
先取りもいいところであろう。南方より仕入れているのは間違いなかった。
それにしても、贅沢なものばかりである。
フォアグラだの、隣の領であるランスロット名産の豚の塩漬けだの、高級食材がふんだんに使われているではないか。
これが領民からせしめた税で賄われていると思うと、ますます怒りが込み上げてくる。
この憤りをむりやり抑え込み澄ましているルジートの横では、やけに楽しそうにセシリスが食事をしていた。
セシリスは何故かルジートの向こう側にいる子息達を眺める度に、笑いを堪えていた。明らかに片方の口角が跳ね上がっているのである。
彼の金茶色の瞳がこの状況を一番把握していた。
そのセシリスの向かいに座るヘレナは、明らかにおもちゃを見つけた時の表情をしている彼に、何が面白いのか聞きたくて仕方がなかったが、 とても聞ける雰囲気ではないので食事が終わるまで我慢することにした。
ルジートの向かいに座るカレルは一切を気にすることなく食べている。
それでも時折ルジートの様子を気遣うカレルに連中の不躾な視線が集中するが、彼の知ったことではない。
それも、セシリスの笑いのつぼに嵌ったようだ。
食後の歓談中、こっそりとヘレナはバルコニーにセシリスを連れ出し質問した。
「何がそんなにおかしかったの?」
セシリスは小さいヘレナが冷えないよう自分の脱いだジャケットを彼女の肩にかけると、自分の目線に合わせるべく抱え上げバルコニー の手すりに座らせた。
会話が漏れ聞こえぬ様横に立ち、彼女の耳元で囁いた。