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男爵の家から帰ってきた一行は、あの家でまとわりついた何かを洗い流したいともう一度風呂に入り直した。 男二人はどうもあの香油という物にも馴染めないらしく、石鹸を使いしっかりと洗い流した。
タオルでしっかりと髪の水分を拭き取った面々は、ルジートの部屋へと向かった。 ルジートの屋敷は石造りということで保温は確かに優れてはいるのだが、いかんせん4年も火の気がなかっただけに、 三刻ほど焚き続けても底冷えは否めなかった。
4人はルジートの部屋の暖炉の前に陣取ると、口直しと言わんばかりに料理長に温かい食べ物をせがんだ。
アイーダは苦笑しながら、先ほど行く前にルジートが頼んでおいたサンドイッチのほかに、人数分のポトフを運んできてくれた。
「ソフィーが、きっと後に小腹がすくでしょうからと用意しておりました。」
これなら大量に作っておけば、腹も満たせるし体も温まる。余ったとしても翌朝のスープに出せばいいと料理長がポトフを作り置いてくれたのだ。 さすがに慣れないキッチンで疲れたのか、もう床についているらしい。
全員が当たり前のようにルジートの皿に手を伸ばし、サンドイッチをぱくつきながらポトフを楽しんだ。
多分この状況も読んでいたのであろう、先ほどのハムチーズのサンドのほかに、ソースがパンに染みないよう茹でキャベツで包んだ デミソースのハンバーグサンドも皿に乗っていた。さすがソフィー料理長である。
猫舌で温かいもの好きのヘレナは、ふうふうと息を吹きかけて冷ましながらスープをかきまわしていた。
「ポトフに肉のキャベツ巻が入ってる!!」
同じ食材も味と形を変え、品数を増やすところはさすが町の食堂の娘。
こういう節約で二度美味しいのは、ルジートは大好きだ。
夏祭り前には、この方法で浮いた経費分を彼女に還元しようと一人ホクホクしていた。
これが後世、ルジートの治世下では当然となっている『特別報償』の原型であった。
「あ~、この腸詰め、かなり美味いな。」
目をつぶってうっとりと味わうセシリスにアイーダは微笑んだ。
「うちの兄は今の食堂を始める前は腸詰めの職人でしたの。これはあの店で作っているものをソフィーが持ってきたのね。」
一斉にどれどれと腸詰めを食べだす4人にアイーダは目を細めた。
男連中の物足りない分は今日ヘレナが稼いできた頂き物の残りでお腹を膨らませ、一同はようやく今日の反省会を始めた。
思い出してまた腹が立ってきたカレルが、ただでさえ口数が少ないのにさらに押し黙る。
またもや室温が下がり始めた。
「確かにあれはないよ~。疲れて帰ってきた日にいきなり縁談の話で、さらにクズが勢揃いだもの~。 この中から選べって言われても選べるわけないじゃん~~。」