• ホーム
  • サイト管理者
  • 小説
  • イラスト
  • リスト

会計はほとんど食べてない森咲が、誘ったからには全部持つと言っていたのだが、セシリスの説得で折半となった。
セシリスがヘレナに森咲を送ることを告げると、ヘレナは宿で待つことになった。
帰りの道中も森咲を尾行している者はいないかセシリスは辺りに気を配ったが、その様子もない。
森咲は万死に値する馬鹿上司と言っていたが、このような彼女を懐に置いておくのだから、なかなかの人物ではないのかとセシリスは思っていた。
森咲の自宅に明かりがつき、襲われるような音が聞こえないことを確認すると彼は宿へと帰った。
しかしその様子を、息をひそめて見ていたものがいる。
彼の鼻が利かない風下にいた男は、セシリスが戻るのを確認すると、姿を消した。

セシリスが森咲を送って帰ってくる間、宿に戻ったヘレナは、森咲の質問の返答があれでよかったのかどうか非常に悩んでいた。
セシリスの微妙な表情をみると、何か返答を間違えていたのかもしれないが、自分の気持ちを端的に言うとあれだったのだからしかたない。
そう結論に達したタイミングでセシリスは帰ってきた。
その表情から察するに無事届けられたらしい。
ヘレナは安堵した。
しかしヘレナにとって、この日の夜ほど居心地悪いことはなかった。
やはりあの発言からセシリスの様子はいつもと違っている。何がどう違うのかとは言われればわからないのだが、壁のようなものを感じる。 しかし自分が連日食べ過ぎたばっかりに、取れた部屋のベッドが1つしかなく、逃げ場などというものはどこにもなかった。
ヘレナはどうにかこの場の雰囲気をよくしなければと、とりあえず謝った。
その謝罪に耳を傾けていたセシリスはベッドに腰掛けると、底冷えする目を向け静かに聞いた。
「何について謝っているんだ?」
ヘレナは言葉に詰まると、口ごもりながら答えた。
「やっぱり…食べ過ぎたり、さっきの話だったり、迷惑かけたりとか、なんか全部。悪かったのかなと思って。」
「へえ?それの何が悪いんだ?」
ベッドに座った彼の目線は立っている自分の目線と同じ高さになる。
こういう雰囲気で正面から見据えられたことのないヘレナは、居心地の悪さから視線をそらした。
「だっていつも、そう言う雑務だのなんだの全部セスが片付けてて、私何もしていないし。 もしかして、さっきの話も、私、なんかセスに悪い事言ったんじゃないかって。そう思ったから。」