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アレキサンドリア領の冬は厳しい。
そもそもこのアレキサンドリアという領地は、バクシオン大陸北部の3分の2も占めている上に東西に長く、 霧と人間の生活地の緩衝帯のような役割を果たしているということもあり、魔物や獣が出ることも多い。 また冬季は長く雪で覆われ山岳地も多いということから、近隣の他領に比べ土地の広さの割に人口が極端に少なかった。
隣接している領地と言えば大国ばかりである。
南東には圧倒的な人口数と独自の発展を遂げたホウライ領、南には王都のある流通と経済の要のロタール王国直轄地、 そして西にはこの度ホウライナカノハラ家の天花姫を娶ることになった、現在はルジートの母の従兄が治めるランスロット侯爵の領地があった。
この三方はアレキサンドリアと違い、冬も暖かく土が凍ることもない優れた土地であったことから、 結果的に経済や独自の文化が大いに発展するのは当然だった。
ルジートが幼い頃から愛飲しているココアは、母の叔父である今は亡きランスロット侯爵の地から取り寄せている。 この叔父と王の間に何があったかは分からないが、叔父は王都から離れ、地方領主として臣下となる道を選んだ。 以降は領の発展に力を注ぎ、嗜好品の一大産地として、ロタール王国有数の『偉大なる領』にまで登りつめたのである。
アレキサンドリアが欲する嗜好品は大体この領地との取引をしているが、それは後を継いだ母の従兄アーサー候の代になっても変わらない。
そんなアーサー候からの使者も、公女帰還の知らせを受けアレキサンドリアの屋敷に来ていたのである。
セシリスとへレナが出立した後のアレキサンドリア公の屋敷は、かつてこれほど賑わったことがあったかというほどの使者であふれていた。
破天荒なルジートもさすがにこの状態では、公爵家の面子を潰さないよう品良く、また礼を欠かさないよう、 母の置いていったドレスの中からサイズの合うものを着用し、気を配らざるを得ない。カレルにも昨晩着せた上着を羽織らせるほどだ。
さすがに直しばかりではと、アイーダを筆頭に縫物に熟練の技を持つ侍女達が、早々にルジートのドレスを縫っているが、昨日の今日である。 完成はまだ先であった。
「どれどれ?」
深緑色のパフスリーブのドレスに身を包んだルジートは執務室のソファに座り直すと、玄