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翌日の昼である。
桜子が約束を守ってアレキサンドリア邸に現れた。目の下にクマが若干出来ているところを見れば徹夜での作業だったのであろう。 なんだかあの帯で腰を止めた前合わせの風変わりな服も、着崩れているように見える。 また髪を両横上部で括っているリボンの結び目も、片方は斜めになっていた。
彼女は一つ一つ丁寧に緩衝材で包んだ鍵を風呂敷に入れ、ここまで背負って歩いてきたようだ。
うっすらと額に汗がにじんでいる。手にはハンカチが握り締められていた。
カレルが手伝おうと袋に手をかけようとしたが、桜子は丁寧に断った。
「結構危ないんです。何かあると困るので、自分で持って行きます。」
どんな仕掛けなんだとカレルは突っ込みたかったが、ルジートが現れたので飲み込んだ。
さっそく執務室で鍵を見せてもらうことになった。
桜子は風呂敷を広げ、包みを丁寧に開けると、ルジートとカレルに説明を始めた。
「お約束の品です。執務室とルジート様の部屋用のお仕置きですが、マヒ針を仕込みました。この鍵穴の周りですねえ。 わかりにくいかもしれませんが細かい穴があいてますでしょ?ココから飛び出ます。中を覗きながら無理に針金など入れて開けようとすると、 目の周りにぶすっといきますよ。」
「なかなか鳥肌立つ仕掛けねえ。」
ルジートが腕をさすっている。想像して肌が粟立ってしまったようだ。
「マヒの時間はほぼ大人で半日というとこでしょうか。ホウライ特産の薬草を組み合わせて作っているので、 時間が来るまでは解毒の方法はありません。」
「どんな薬草の組み合わせ?」
興味津々に尋ねるルジートに微笑んだ桜子は首を横に振った。
「それは企業秘密です。」
なるほどとルジートは笑い、桜子に次の提案をした。
「今回の鍵とは別にあなたに宿題を出すわ。わが領土の特産品の石炭を使って、大量のものを遠距離輸送する方法を考えてほしいの。」
桜子は、小首を傾げ唸った。
「燃やして出来る熱量を移動の原料にってことですよね。なるほど、それは面白そうですね。考えてきます。」
何かしらイメージができたのかうんうんと頷いている。
「予算とかも概算でいいから考えてね。」
「了解です。では設置してきますね。」
桜子が設置している間、ルジートは各担当者に自分の職場の鍵を渡した。
アイーダには全ての部屋の鍵。
ソフィーには厨房の鍵を。
これで密偵が出ても今回のようなことは避けられるではないか。