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森咲は気絶しているかと思いきや、なんと熟睡していた。
相当疲れていたのだろう。普段から睡眠時間が少なかったのかもしれない。
ルジートは目覚めの術を使った。
森咲は大きな黒目がちの瞳をぱっちりと開けた。
それから苦痛に顔が歪む。
「腕が痛い。」
袖を捲って見ると彼女の腕はやはり痣になっていた。
あの速度に風圧と振動を喰らい、むしろこの程度で済んだのは、ヘレナの結び方が上手だったということだ。
「後で痛み止めの薬を渡すわ。」
ルジートは、ベッドの脇に座った。
森咲は上体を起こし部屋を見渡すと一瞬で状況を把握した。
ヘレナとセシリス、調度品とルジートの容姿でこの事態がわかったのだ。
自分の家が焼け、セシリスに担がれ森に逃げ込んだ後、自分が気を失って寝ているうちにアレキサンドリアに連れてこられたということを。 そして、何か緊迫することが起きていたということまで理解した。
「私、ここ何日かずっと寝てました?」
森咲は徹夜で仕事をしたり、寝不足が続いた後は2日程眠り続けることがある為、心に衝撃と負荷が掛かった今回については、 さらに寝続けていたのだろうと思っていた。
「いいのよ。」
ルジートは気にしないようにと、首を振った。ヘレナ、セシリスもまさか数刻しか経っていないとは言えない。
「すみません。」
人に何かしてもらうことに馴れてないのか、彼女はバツが悪そうだった。
「大体の話は聞かせてもらったのだけど、証拠の品を私に渡すために、あなたに危険な橋を渡らせてしまって、申し訳なく思っているわ。 今後のあなたの処遇はうちで預からせてもらうということでいいかしら。お給金は今までの額と、そうね、町に住むのは警護的にも 厳しくなると思うから、一連のことが片付くまで私の屋敷に仮住まいをし、帳簿と証拠の整合作業をお願いできるかしら。」
「え、よろしいんですか?」
上司を寝返った自分を使う気なのかと森咲はルジートに尋ねた。
「私はね、これだけ早くにあなたの家に火を放つということは、常に監視はされていたのだと思うわ。証拠を持っていてもあなたを処分せず、 ただ泳がせていたのだと思うの。何故そのような処置をとったのかを考えると、あなたが有能だからということでしょ。 通常の仕事に支障を来すよりは、いざという時まで働いてもらいたかったのではと思うわけ。それほど有能なら、私のところでだって働いてほしいわ。 それにあなたは不正が許せないから、事に及んだわけでしょ?そんな人がウチで不正をするとは思えないから安心