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ヘレナは食堂で侍女達の掃除の様子を見ていた。
先日森咲の元に現れた、密偵の娘も、普通に働いている。
やはり、自分の行動に無自覚だったのではないかとヘレナは考えていた。
ルジートが後日王都に向かう時は、自分とセスで留守番をし、森咲と切り盛りするしかないと思いを巡らせていた頃、 かちりと2階のドアが開いて閉まる音がした。
足音がしない。
セシリスが目を覚ましたらしい。ヘレナは廊下に飛び出た。
ちょうど彼は頭をガシガシと掻きつつ欠伸をしながら階段を降りてくるところだった。
下のヘレナに気付くと、セシリスはいつものように片方の唇の端を吊り上げて微笑んだ。
「おはよう。」
もう昼もとっくに過ぎ、すでに夕方に差し掛かってきているが、起きぬけの彼としては朝の挨拶であった。
金茶色の眼には力がある。どうやら体調が完全に回復したようだ。
ヘレナはほっとした。
「おはよ、ご飯食べる?」
「あー、この時間か。軽くつまむかな。」
窓の外を見て今の時間に気付いたセシリスは、ヘレナを伴い食堂へと向かった。
「ソフィーさんに頼んでくる!」
ヘレナは厨房へと駆けだした。
保存食しか出せませんというお断りの下、ソフィーからキャベツの酢漬けと大きいソーセージにパンを3人前ほどもらってきたヘレナは、 セシリスに渡すと自ら茶を給仕した。
「ルーに二度ほど、術をかけてもらったのがよかったのかもしれないな。」
頬張ったものを飲み下すとセシリスは人心地がついたのか、ぽそりと呟いた。
侍女達は気を遣ったのか、廊下の掃除に向かっている。
食堂には、ヘレナとセシリス2人だけであった。
ほのぼのとした雰囲気は、勢いよく開け放たれた扉の音と、形相の変わった森咲とラインの乱入で一気に崩壊した。
「公女様は?!」
森咲の切羽詰まった声にヘレナは圧倒されながらも答えた。
「えっと、処刑に行った。お従兄ちゃんも一緒。」
「何かあったのか?ええと、そちらさんは??」
セシリスは森咲の後ろに立つ仏頂面に興味を示した。
まさか、森咲が男連れだとは。自分が寝ている間に、色々進展したらしい。
だが森咲は、生温かいセシリスの視線に気が付かなかった。
「セシリス殿、体調は回復したんですね?こちらはライン・ブッフバルト様。ルジート様