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アレキサンドリアを出発して3日を過ぎた頃には、カレルのぎこちない礼儀作法もそれなりの形になってきていた。反復練習の成果が出てきているのである。
それでもやはり頭を下げることに納得がいかないのか、眉間の皺は相変わらず深い。
そんなカレルとは対照的に、御者台のエマは途中途中休憩で立ち寄る宿場町での買い食いでご機嫌であった。何せ出資者を乗せているのである。公女は町に立ち寄る度に、馬車を走らせ続けているエマと、行儀を仕込まれ不機嫌なカレルを気遣い、沢山甘い物を買ってくれるのだ。
今も宿場町で手に入れたバターをふんだんに使った菓子を頬張りつつ、エマは軽快に馬車を走らせていた。
中との会話は御者台の背にあるスライド式の小窓を通して行われていた。
「このお菓子美味しいわね。」
唸るルジートにエマが満足そうに返事をする。
「このバター菓子は塩バターを使っているとこがにくいでするよ。中の生地のほんのりとした塩味と、表面のキャラメルが絶妙でするよ。またこの周りがバリバリ、中がさくさくで、もうやめどきがわからなくなって、つい一度に3つは食べちゃうでする。」
「確かに。」
3つ目を既に口に運んでいるカレルは大きく頷いた。
訓練明けのカレルは、疲れを取るべく積極的に甘いものを口にする。
「エマさん、これだけいろんな町の美味しいもの知っているんだから、土づくりの仕様書が完成した後は地方の美味しいものを纏めて書いたら?」
「それもいいでするね。」
「きっと貴族に売れると思うわよ。商人も買うでしょうね。」
自分の買い食いが役に立つこともあるのかと、エマは驚いた。でも確かに、こういうものがあれば出かけた際の楽しみになるのかもしれない。
「書いてみるでするよ。」
エマは馬を操りながら、頭の中で地図を広げた。