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   朝食の後の腹ごなしの散策は、かなりの距離となった。
アレキサンドリアの別邸を中心に、昼に向かう温室や、他所の別邸の周りを歩くことにしたからだ。
ルジートとカレルは大きな通路から、背の低い木を刈り上げて作った垣根の路地までくまなく歩いた。
レルは普通に歩いているように見えるが、確実に建物の開いた窓から流れる人の匂いを覚えていった。
見た目を変えられると誰が誰だか分からなくなるカレルではあるが、匂いを覚えれば間違うことはない。何処の誰なのか、それは霧の中にいた時も毎日確認していた作業であった。
その行為にルジートは、やはりカレルはどこにいても常に縄張りを持つのだと妙に感心した。
「腹が減ったな」
どうやら厨房のほうの匂いまで嗅いでしまったらしい。
匂いに呼応するかのように腹の音が鳴った。先程食べたばかりであるが、既に消化されてしまったようだ。
ルジートは爆笑すると、別邸に戻ろうとカレルに声をかけた。

   一目散にカレルは付き人用の部屋に戻ると、本日用の買い食い分を片手に抱え、ルジートの使っている部屋へやってきた。口に果物を放り込んでは、ルジートの部屋の窓を開けて回る。明け放った窓から爽やかな草木の匂いが入り込んできた。
ルジートには心地よい匂いであったが、カレルの場合はそれだけではなかった。その草木の匂い中から、人の匂いを嗅ぎ分けてゆく。
どうやら匂いの動きで、この辺の人の動きを掴んでいるようだ。
 そうしているうちにお針子たちの懸命な徹夜の作業によって完成したばかりのドレスが届いた。