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   雲雀姫と桐儀は連れ立って歩いているが、会話の内容は実に乾燥していた。
「桐儀、いたずらにルジート公女様に触れるのはよくないと思うわ」
「王国流の挨拶ですよ」
「でも、先程の大柄な方は公女様の恋人だと仰ってたわ。その方の前であれは失礼よ」
「カルマ殿がそうおっしゃっていたんですか?彼が、恋人だと」
「そうだけど…。だから波風を起こすようなことはやめてください」
桐儀はなるほどと思った。
従者にしてはガラス越しに彼女を見る目が違うと思い、カマをかけてみたら案の定あの殺気だ。
婚約の発表なく恋人となると、身分の低いものなのだろう。
仕掛けてこなかった所を見ると馬鹿ではないのか、彼女の躾が行き届いているのか。
どちらにしても、不快だった。
身分不相応な恋慕の末路を味わせてやりたい。そう思った。
何故こんな風に思うのか自分自身でもわからない。
こんな感情が生まれたことはなかったし、自分にあったことが驚きだ。
ただ、彼を見る彼女の目を見た時に、このどす黒い感情は生まれた。
その正体は分からないが、無くす方法は分かっていた。
彼を排除する。
そうすれば収まるということは知っていた。
暗い目で押し黙る桐儀に、空恐ろしくなった雲雀姫は、何も起こらないことを祈っていた。
まさか、彼が公女に一目惚れし、異常なまでの独占欲に身を焦がしていたなど考えもしなかった。
本人が気づいていないのだから、よほどの勘のいい者でないと周りが気づくはずもないのだ。
以降二人には会話もなく、黙々と並んでただひたすら帰路についた。

   カレルは自分自身、よくあの挑発を受け我慢できたと思っていた。
あの男と目があった瞬間に分かった。
一瞬で沸き立った闘争本能からしても、あの男は、理解した上で自分の縄張りに入り、自分の雌に気があることをアピールしたのだ。
前もって注意されていなければ完全に仕留めていただろう。
「カレル?」
押し黙って歩くカレルに、心配そうにルジートは声をかけた。
その時あの男の匂いが消えた。
どうやら建物の中に入ったらしい。
ようやくそこでカレルは短く息を吐くと、ルジートの頭をぽんぽんと叩いた。