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暁の乙女亭

サリーが住むアパートメントは、バイト先の『暁の乙女亭』から2丁東に入ったところにある。
そのサリーの部屋では、編集者でもある天使ミハイルが相変わらず能面のような顔をしながら、1人がけソファに座り彼女が書いた原稿を読んでいた。
サリーは自分の書き物用の席で編集者のOKが出るのを、じれったい気持ちで眺めていた。
今回は量があるため読み込みに時間がかかる。なにせ10話分も書いているのだ。
時間ぎりぎりまで書き込む彼女にしては、この短期間にいつものクオリティで10話書き上げるというのは異例中の異例であった。
そこまでサリーが頑張ったのには訳がある。
先日、部下で友人でもあるガルディアが、死神に転生した相方のリンダを連れてサリーのアパートメントを訪ねて来たのだ。
『無事人であった頃のリンダの仇を取ることが出来、何とかリンダも死神に戻すことが出来ました』とガルディアがほっとした顔で挨拶してきたときには、サリーも嬉しくなり涙が止まらなかった。2人が仲睦まじく視線を絡ませたり、互いを気遣う様子を見ていたサリーは、なんだか無性に自分の相方の顔が見たくなったのだ。
もう半年以上も逢っていないのである。
サリーは先月の締め切り時に言われた『会いに行ってもいいノルマ』以上に仕事をこなして会いに行くことに決めた。
バイト先の仕事も、秋祭りを終えてからは落ちついて来ている。
来月になると年越しの為に商人や遊牧民の大量買い付けなどがある為、忙しくなるのは例年の慣例で分かっていた。となると、今月中に行かなければ機を逃してしまうのだ。
そうなってからのサリーの行動は早かった。
僅か5日で連載を10話分書き上げただけではない。死神の仕事であるハンコ押しも1月分先まで終わらせたのだ。
それもこれもエスクードに会いたい一心で、サリーは奇跡を起こしたのであった。 いつもの5倍の速さで仕事を終えたサリーは、早速編集者のミハイルを呼び出したのである。