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暁の乙女亭

女将の休日はいつもより半刻ほどの寝坊から始まる。
まず窓から天気を窺い、乱れたベッドを直す。それから冷水で顔を洗い、すぐに隣部屋の風呂場兼洗濯場に向かう。晴れている日は大抵洗濯から行動を開始するのだ。
精霊を使役する女将は、まず洗濯用のたらいの中に粉石鹸と洗濯物、そして丸い石を2つ入れると、水の精霊と風の精霊を呼び出す。
洗濯板を使って洗濯など、冒険者になって以降、女将はしたことがない。いつも精霊を使って洗うのだ。
水の精霊に石と洗濯物の入ったたらいに水を張って貰うと、風の精霊には水流を作るよう指示する。そうすると水の流れで転がった丸い石が洗濯物とたらいに上手くぶつかり、生地を傷めずに押し洗いも兼ねた洗濯が出来るのだ。
汚れが浮き上がったその後は風の精霊に絞って貰い、たらいの底のコルク栓を引き抜くと、汚水が下水道へと流れるようになっている。アンディーンの街は綺麗な水は水路に、汚水は地下の下水道を通り、浄水用の施設へと流れるように決められているのだ。
改めて水の精霊にたらいを洗って貰うと、再度水を張りすすぎを行うのだが、ここは水と風の精霊に任せておく。まさに全自動と言うべき洗濯方法だ。
その間に女将は風呂桶の洗浄に取り掛からねばならなかった。香木で出来た女将の風呂桶は湿気を嫌うため、洗い終わった後は火の精霊が水分の蒸発を手伝う。そのせいか、女将の風呂場には湿気がこもらず、水やカビの匂いはなかった。
洗濯物のすすぎは、女将が風呂桶を洗い終わるタイミングで終了となる。
濯ぎ終わった洗濯物を、大きな笊が内蔵された籠に入れ蓋をすると、風の精霊が笊を勢いよく廻し水を切ってくれるのだ。
それを手提げ籠に移し自分の店の裏にもあたる裏庭に干しに行くのである。
これで精霊たちの仕事は終わりというわけではない。
風の精霊は、部屋の空気を入れ替えるとともに、埃やごみを風の力でかき集めてゆく。女将はそのごみを一部屋一部屋丁寧にかき集めて捨てるのだ。
部屋の掃除が終わったあとは洗濯物を早く乾かすために、風の精霊がそよ風を常に庭に吹かせることになっている。