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取った。
「バスケットは荷物の中に入れるぞ。」
カレルの心ない言葉にエマは口を尖らせた。
「口がさみしい時に食べたいでする!!」
「おやつは町で買い込んでください。」
ソフィーの突っ込みにルジートは爆笑した。
「桜子さんのところにも寄る予定だから、おやつもちゃんと買えるし、心配しないで。」
公爵家の馬車は、どうやらルジートが戻ってきてから丹念に整備をされていたらしく、掃除も行き届いていた。 本来公用で使用していた4頭立ては4年前に王都に行ったきりであるため、2頭立てのお忍び用で向かうことになった。
各自の荷物はトランクに3つ分で収めた。
ドレス等を持っていかなくていいのかと森咲は心配したが、どうせ向こうで誂えることになるからとルジートは笑った。 元の自分の服は4年前の物で、サイズもすでに着られるものではない。現在は母親のものを直して使っている。 それを持って行って無頓着ぶりで批判をされるぐらいなら、最新のデザインで作るから持ってこなかったと言いきったほうがマシだとルジートは思っていた。
エマの荷物のほとんどは王都の伝書士協会に預けているため、彼女の荷物も少なかった。
無論、カレルもアレキサンドリア公の服を直したものだけだ。
三人とも換えの一着と下着、身だしなみの物だけで十分だったのである。


桜子は鳩を飛ばしてホッとしていた。
次の指令は専門の密偵が受けるか、送りこめないということで鳩が来るかのどちらかだ。
とりあえず何もしないという現状に桜子は安心して、頼まれた万能保温器3台と後回しになった貴族の館の 鍵の作成に取り掛かったのである。
それから時間を置かずに表の扉がゆっくりと開き、牧歌的な鐘の音が来店を告げた。
「いらっしゃいま…」
途中まで言い掛けて桜子は言葉を失った。
「店はここにあるのねえ。」
ここで会う筈のない者の来訪に桜子は呆気にとられていた。
ルジートが、物珍しそうに店内を窺いながら入ってくる。
その後をカレルが、扉をくぐるように来店した。
固まっている桜子の向かいにルジートは椅子をずらして座ると、そっとメモを桜子の前に置いた。
何故、見覚えのあるこの紙がここにあるのか桜子はわからなかった。
昨日鳩に託したはずなのに。