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暁の乙女亭

 巨大王国が栄華を極めるバクシオン大陸の西方は、件の王国より未開の地と呼ばれていた。 西方は川が少なく、水資源の確保が難しいということもあり、国として発展が出来ず小規模な都市国家が群立していたこともある。
その西方に経済においても人種においても、王国のお膝元である王都をも凌駕すると言われている街がある。
その街の名は『アンディーン』と言った。
水の都の意味を持つこの街は、水の精霊が住んでいると噂される程、水が豊富にあった。一面荒涼とした大地に一画だけぽつりと緑と水が広がっている様が、その噂に真実味を持たせていたと言っても過言ではない。
この『アンディーン』はその豊富な水量を使った外堀と内堀を用いて、外敵である攻撃的な妖魔、魔物や害獣の類から街を守り、発展を遂げて行った。
もちろん街中に張り巡らせた水路を使い、ゴンドラを使った物資の大量運搬を可能にしたことで繁栄していったという面もある。
生活に必要な水だけでなく、大量の水を確保しているというのは強みであった。
そのためこのオアシスのような街を利用する者は多種多様を極めた。
人類の他にも、ハーフなどの亜種、親和的な妖魔、魔物、魔族に悪魔や天使等がこの街に居を構えていたのである。此処はまさに坩堝と言えた。
そして、世界の縮図とも言えるこの街に、各種族が勢力を反映させるべく住民数を増やしていったことで、敵対する種族間での諍いなども増えていった。
それを憂えた者たちが、長老会なる各種族代表でつくられた組織を作り、より良い街にするべくルール作りをし、また各種族の監理官なる役人を設け監視するシステムを作った。
長老会は主に政治と法の改正を、監理官は法の執行と住民管理を担当し取り仕切ったのである。
『アンディーン』はニコット暦860年に莫大な税を納めることで、この大陸の大国『ニコット王国』の自由自治都市として認可され、王国との取引が自由にできるようになった。 ニコット暦876年に、北東の領出身の女大公が『総督』として、アンディーンを含めた西方の地を治めることになるのだが、それまでは自治都市として隆盛を誇っていたのである。