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女性の店主が少ないこともあり、飲み会となるとあらゆるところで声が掛かる。
見た目が華やかな金髪に海のような青い瞳は、どこに居ても目立つらしい。
皆女将がもう一店出店したいという話しになると、それは親切に教えてくれた。
この近辺は夜の飲食店が多く、アイテム屋の出店が付近には無いということで客足は期待できると皆口をそろえて言うのである。また冒険者向きだけでなく地域的に、惚れ薬や酔いざまし、胃薬などの需要も多いということも教えてくれた。路地を挟んだ表通りには飲み屋の他に連れ込み宿や安宿が多いという点で、困窮している冒険者や新人が定宿にしているという話も聞くことが出来た。
「女将、ポーションの類は、ポーション協会が価格設定とかいろいろ握ってるから、あっちにも登録しておかないと、後々因縁つけられるぜ」
「アイテムは?呪い系の」
ざわついている中での会話は自然と大声になる。
「アイテムはなあ、魔道士協会の方に登録がいるからなあ。何だ、何でも屋にするのかい?」
「そうなっちゃうと思うのよ。客層を絞るつもりがないから」
「惚れ薬系は高値でも売れるよ。場所が場所だけにな。店の姉ちゃん落とすのに皆必死だから」
綺麗なお姉さんにのぼせるのは、男の常らしい。
「まあいいから、女将、飲んでよ」
質問の回答が来るたびに女将のグラスにはエールや、テキーラ、ジンなど各人が自分のお勧めを注いでいく。気がつけばそのまま2次会にも女将は流れで参加し、夜中まで飲み続けることとなった。

翌日二日酔いの薬を煽る羽目になった女将は、心底今日が定休日で良かったと思った。
この日も午後から活動を開始した女将は、店主達の勧め通りポーション協会と魔道士協会に行き、会員登録をしてきたのだった。その際規約が書かれた冊子を渡されたのだが、これが両方ともやたらと厚い。
読むのを後回しにした女将は、例の空き店舗を所有している不動産屋に足を向けた。
不動産屋は閑散としていて、店主は客が来たことを大いに喜んだ。
「どうぞどうぞ!」
早速女将は奥の応接ソファまで通された。
眼鏡をかけた髪の薄い初老の店主は、女将の希望を聞くと、図面だけでなく何故か契約書まで持ち出して切々と話し始めた。
あの物件は1年ほど前に持ち主が亡くなったことで、地代を受け取っていた不動産屋が預かることとなったのだが、治安の悪さからか借り手がつかず困っていたというのだ。
間口は『暁の乙女亭』の半分だが奥の続き部屋は広い。
前の持ち主もアイテム屋だったそうで、奥を工房に使い、手前を店舗にしていたそうだ。