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その間水の精霊は、花瓶の水の入れ替えをするのだ。
そうして午前中が終わると、ようやく女将は朝昼兼用の食事をとる。
精霊のおかげで女将は1人でも家事を半分の時間で終わらせることが出来るため、時間が空いた休みの午後は大抵アイテム作りに力を注ぐ。
そんな生活を半年もしているうちに、アイテムが相当数出来たこともあり、女将はそろそろアイテム屋を開店しようかと考えていた。
丁度『暁の乙女亭』から15軒先に空き店舗がある。
大通りを挟んでいる為、わずか15軒先と言っても距離はあった。だが近場であることは間違いない。
ただ問題は、大通りを挟んで向こう側はあまり治安がよろしくないというところであった。
いかがわしい店が裏通りにあることで、客層を選んでしまうのではないかと女将は心配していた。女将の店の常連である踊り子のガーネットであれば、職場に近いということで滋養強壮剤を買いに来てくれそうではあるが、普通の女性の冒険者であれば来にくいのではないかと思ったのである。
女将がどうするか迷っている最中、宿屋組合の一つ上の組織である商店街組合の寄り合いで、親睦会を開くと言う回覧板が廻って来たのだ。運のいいことに開催日が来週の休日の前夜である。
女将としては、市場調査も含め話を聞くにはちょうどいい機会であった。
さっそく女将は来週の親睦会で聞きたいことを纏めると、この休みの午後はアイテムづくりに勤しむことにしたのだった。

一週間後である。
この日は秋風が吹き、心地よい夜であった。
「どうも、遅れてすみません」
親睦会の会場となる『白銀の鎧亭』は、女将が目星をつけている空き店舗の斜め裏にあった。
入口がいかがわしい店が立ち並ぶ裏通りに面しているため女性はかなり入りにくいが、店内は意外と掃除が行き届いている。カウンター席と壁に沿ってテーブル席が5つほど並んでいて、壁には店名の通り白銀で出来た肩あてや、腰のプレートなどが飾られていた。もちろん蝋燭の煤で今は鈍く光っている状態であるが。オーナーの店長は細身の優男で、この鎧は冒険者だった弟のものらしい。
今日の会合の開催時間が女将の店の閉店前ということもあり、女将は閉店後駆けつけたので少し遅れて入ることとなった。
店内はかなり騒々しく、どうやら店休日の店長たちが早くから来ているようで、既に出来上がっている状態であった。
「暁の女将!!」