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ようで、神の力が弱まると信心深い魂を多く上納するよう指示が飛び、悪魔に力を与える魂を悪魔サイドに取られる前に早めに刈り取る指示が天使から降りた。
本来この指示もその都度出されるものなのだが、この西方地区は違った。
1年前サリーの恋人で相棒であるエスクードが、悪魔との契約満了直前である『暁の乙女亭』の女将の魂を狩りに行った際に、本人と契約している悪魔、2人がかりで追い払われ、上納する数に誤差が生じたのである。これはサリーの痛恨の管理ミスでもあった。代わりになる魂を狩ることをエスクードに指示し忘れたことで、相棒が責任を負い左遷されることとなったのだ。
まだ当時サリーが監察官に成り立てとはいえ、この監督不行届きも含め成績が上がらないために、天使であるミハイルが目付としてサリーの元に派遣され、飛ばされたエスクードの代わりに彼女の補佐を務めることとなったのである。
普段ミハイルは新聞社の敏腕編集者として、サリーから原稿を取りつつ、天界から『選定死者届』の書類を持って来ては彼女にハンコを押させていた。
何故そんな一々ハンコを押させる煩わしいシステムを取っているのかというと、天使は直接現場の死神に指示を出してはならないことになっているからなのだ。
つまりこのハンコのない書類を天使が渡したところで、死神は動かないのである。
死神は飽くまで、上位である死神の監察官の指令でしか動かない。
その指令こそが、監察官のハンコが押してある書類なのだ。
それが、神と死神の間で取り交わされた契約である。
死神は天界の組織の末端ではない、取引相手である。それを知らしめるために死神には天使には無いファミリーネームがついていた。嫌味のように『死の天使』の称号を持つアズライールから取った『アズラエル』という名がそれである。

サリーが仕方なく散歩を諦め、原稿に向き合っていたときであった。
シャボンの匂いがふんわりと鼻孔をくすぐったのである。
匂いの先に視線を向けると、ベランダが開いているではないか。
まずい!!
慌ててサリーはベランダに飛び出したが、時すでに遅し。
サリーの洗濯物が、たらいの中でシャボン液に浸かっていた。
「ああああああ!洗濯は自分でするからやめてえええええ!!!」
サリーの絶叫が響いている中、ミハイルは桶に入っている洗濯済み分を干そうとしていた。
「自分でする?そんな時間があるならさっさと書いて、ハンコを押して終わらせて下さい」
木で鼻をくくったような言い草に、サリーはぎりぎりと奥歯を噛みしめた。
さっさと書きあがらない自分が悪いのだが、このような辱めを受ける筋合いはない。
ミハイルは何事もなかったような顔で、洗い終わったサリーの下着をパンと小気味よい音