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今日はバイト先の定休日ということもあり、サリーは朝から小説書きとハンコ押しに没頭しなければならなかった。もちろん、数話分書きためれば時間に余裕が出来るからであり、書類が片付けばその分休暇をとることができるからという理由であった。
だが、ものすごく天気がいい。こんな日は外に遊びに行きたくなるものだ。
ちょっとだけ散歩して気分転換でもと、黒髪を下ろし普段の眼鏡から特注で作った特殊な眼鏡にかけ替え玄関に向かったその時、呼び鈴が鳴った。
この時間に見計らったかのように来る人物は一人しかいない。
まだ、日が昇って二刻も経ってないのに!!
慌てて、サリーは机に戻った。特殊な眼鏡を外し、視力を補う眼鏡に付け替えた。さも書いていますという風にペンまで握る。
合鍵で開けて入ってきた眼鏡の男は、新聞の編集者であり死神のクライアントでもある天使であった。
彼は能面のような顔をサリーに向けるとお決まりの言葉で挨拶した。
彼の氷の様な薄い青の瞳が冷酷そうな光を放っている。
「書けていますか?先生」
この言葉に、毎度サリーの胆は冷やされるのだが、相手の男はお構いなしだ。
「あーすいません、ミハイル。まだ~~」
サリーの紫がかった灰色に、縁が金色の瞳がばしゃばしゃとものすごい速さで泳ぐ。
ミハイルには、サリーの邪眼は通用しない。天使の面目躍如というところだ。
ミハイルと呼ばれた男は、帽子とジャケットをコートスタンドに掛けると、眼鏡のブリッジを押し上げレンズを定位置に戻した。
今はいないサリーの恋人でもある相棒と同じ色をした、明るい金茶色の髪を掻き上げると、その男はこれまた愛想のない声で返事をした。
「では出来上がるまで待ちましょう。これ、今日の分です」
容赦なくハンコまちの書類の束が、どんと机の端に置かれる。サリーはげんなりした。
どうしてこうモチベーションを下げることしかできないのだろう。天使だろうがなんだろうが、編集者として少しは学習しろと言いたかった。

このミハイルというサリーが苦手な男は、天界から遣わされた神の端末、天使である。
サリーにしてみれば最近の天界の事情など、どうでもいいと言いたいところだが、常時天使が降臨しているところを見ると、どうも魔界が優勢らしい。
神を摸して創られた『人』の魂をどれだけ多く集められるかが、天界と魔界での覇権争いでは重要なことらしいのだが、悪魔の誘惑は生半可ではないらしく、相当の数が持って行かれていると、このミハイルは言っていた。そこで対抗策として天界で打ち出されたのが、悪魔に魂を持って行かれる前に、死神が刈り取り天界に上納するというシステムだ。
何でも人の魂には、信心深いことで神に力を与える魂と、頭数だけの魂と、悪魔に力を与える魂の3つがあるらしい。刈り取る方としてはどれも同じなのだが、受け取る側は違う