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「アリだと思います」
そう言いつつ、二人は切れはしのレモンに齧り付いた。
「効くわあああ」
「ああ、口がねじ曲がるっ」
レモンの酸味に二人が身をよじらせた時、牧歌的な鐘の音が響いた。
入り口のドアが開いたのである。
「お疲れさまでーす」
軽いノリの男が、笑顔とともに店に滑り込んできた。
金髪は短めに刈り込み、碧眼は寝ていないのか充血している。こちらもお疲れの様子だ。
「お疲れ様です」
同じく返したが、この男はサリーが初めて見る顔だった。馴れ馴れしいぐらいの笑顔で女将に近づいてくる。
「先日はお疲れさまでした~。秋祭りのポーションの売上の全店集計が出ましたんで、お届けに参りました~~。それと、会長が街おこしの新しい秘策を考えましたんで、明日協会会員全員での集会、やりますよ~~。そのご案内です」
話しぶりからすると女将の所属するポーション協会の者らしい。
「ああ、こちらベルナールさん。『紺碧の塔』でお世話になっているポーション協会の事務員さんよ」
「どうも、よろしく」
「こっちは昼のお手伝いのサリーよ。私が不在の時には彼女に伝えてくれればいいから」
女将の紹介にサリーは軽く頭を下げた。ベルナールと言われた男も軽い会釈で返してくる。
「会長さん元気ねえ。こっちはくたくたの状態なのに」
「おや、自分で作ったポーション飲まないんですか?」
「商品飲んでどうするのよ。たっぷり休めば治るもの。無駄なお金は使わない」
女将のポーションは効果が高いが原材料費がかなり掛かっている。
それこそ、ダンジョンで生きるか死ぬかの時に使うような代物だ。手軽に飲めるようなものではなかった。
「女将、明日その会合に出るなら、ゆっくり寝れないんじゃ…?」
気の毒そうなサリーの声に、女将は呻いた。
「そうだったわ。何時から?」
「慰労も兼ねての集会なんで夜ですよ。商店の閉店時間過ぎたら集まって貰う感じなんで。夕方までゆっくり寝れますから」
ベルナールも苦笑している。
此処に来る前も何軒かの店で同じような反応が返って来ていたのだろう。
「お、マリネですか?」
ビネガーとレモンの匂いに鼻をひくつかせたベルナールは喉を鳴らした。