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店の前での口論を避けたい女将は、夢魔の腕を引っ張り、家路に向かわせようとしたが、彼は頑として動こうとしなかった。
「最近俺への愛が少ない」
夢魔がブツブツとボヤキ始めた。
女将はため息を一つ吐くと、面倒くさいことになる前に手を打つことにした。
渋々彼の顔を抱え自分の頭の位置まで下ろさせると、女将は優しく触れるような接吻をした。それでも夢魔は満足したのか、したり顔で微笑むと女将を促して家に向かった。
しかし、やれやれと女将がホッとしたのも束の間だった。
この時間になると、奥に入った路地には明かりが無い。わずか15軒先とはいえ、夜道である。明かりのない路地は本来野盗やスリが闊歩しているのだが、この時期に関しては野盗よりも、秋祭りに向け、先に唾をつけようとする輩が異性を連れ込んでいる方が多かった。また表の飲食街で惚れ薬を試用し、連れ込むものも少なくない。気持ちが先走る者ほど、近場の屋外でそのままということが多かった。
女将はこの、外でという、風習が好きではなかった。
宿代もない男が誘ってくるものではないと思うからである。それに開放的で好きという気持ちもまったく理解できなかった。誰に痴態を見られるかわからない状況で身体を預ける気がしれなかった。
路地からは盛りの付いた猫のように、あちこちから甘えた声が聞こえてくる。どうやら盛況らしい。
夢魔はちらりと横目で女将の様子を見た。
金髪を揺らし露骨に嫌そうな顔をして路地の横を通り過ぎようとしている。
夢魔は女将が外での行為に嫌悪感があると思うと、胸の内にむくむくと湧きあがるものがあった。先程接吻を貰ったことで調子づいた夢魔は、嫌がる顔見たさに路地に女将を連れ込もうとした。
案の定慌てふためいた女将は夢魔にしがみつき、通りに戻るよう懇願した。
その様子に、さらに夢魔は調子づいた。
「たまには外も、刺激があって悪くない」
「何を言ってるの!嫌よ。シャルム、やめてお願い」
容赦なくスカートを託し上げ手を入れてくる夢魔に、女将は小声で哀願した。周りから漏れ聞こえる声に巻き込まれまいと、女将は猛烈に首を横に振って抵抗したのである。
女将は必死に何か彼の気をそらす方法を考えた。
「えーと、チーズが待っているわよ。それにシャルムが好きなシャンパンもあるから。ね?早く帰りましょう。今日はとてもお腹が空いているのよ」
「俺もお腹空いた。今すぐ食べたい」
食べたいものの意味が違うと女将は怒鳴りかけたが、言っても無駄である。
「じゃ、じゃあとりあえず順番。私がご飯を食べるが先。あなたはその後」
「分かった」